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Project Story. 02

FCV用高圧水素タンクの開発

FCV市場の拡大を視野に、
先進技術で高圧水素タンクの開発に挑む。

水素を燃料に走る未来のクルマ・FCV(燃料電池車)。
豊田合成は、新たな市場拡大が見込まれるFCVの主要部品である
高圧水素タンクの開発に取り組み、量産への一歩を踏み出した。

Project Story. 02

FC技術部

内田 安則UCHIDA YASUNORI

01 未来のクルマ・FCVを支える技術。

究極のエコカーと呼ばれ、今後の普及が期待できるFCV(燃料電池車)。
豊田合成は、FCVに搭載する高圧水素タンクの開発に挑戦している。

燃料電池で駆動する同車は、車載する水素(貯蔵時はタンク内で圧縮)が空気中の酸素と反応して発電し、モータを動かす仕組みだ。
走行時は温暖化ガスを出さず、排出するのは水のみ。2014年12月にはトヨタが量販車MIRAIの販売を開始し、ホンダも2016年3月に新型クラリティの市販を始めた。水素社会を牽引するFCV市場は、今後の伸びに期待がかけられている。そんな中で、豊田合成が高圧水素タンクの開発になぜ挑戦するのか。
FC技術部の内田安則が説明する。

「FCVの燃料である水素は原子径が小さく、金属材料では透過したり、金属を劣化させたりする可能性があります。このため、タンク本体は金属材料ではなく、樹脂材料が最適。実は豊田合成では、高耐圧の樹脂燃料タンク開発を1990年代半ばから始め、2002年に天然ガス車(CNG)用の高圧タンクを実用化し、研究開発を継続してきた経緯がありました。」

その経験から、市場の拡大が見込まれるFCV関連の先行開発を決定。2011年からFCV用高圧水素タンクの開発にテーマを絞り、開発を進めてきた。

※資料提供:トヨタ自動車株式会社

02 気密性と高耐圧を同時に満たすタンク開発をめざして。

高圧水素タンクは円筒カプセル形で、高分子材料(樹脂)製の本体部、その外側を補強するCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製のアウター部、そして口金などで構成される。開発チームは、本体製造に生産性の高い射出成形法を採用し、本体に炭素繊維を巻いて補強する工法での実用化を進めた。

「タンク開発で最大の課題は、高耐圧性と高気密性(バリア性)の両立。貯蔵した水素の外部透過を抑止するため、まず気密性の高い高分子材料の開発が必要でした。一方、水素は70Mpa(メガパスカル)に圧縮してタンクに貯蔵されますが、その高圧に耐えられる本体の強度確保と、補強するアウター部の設計も開発要件でした。」

また、タンク内の水素が消費されて圧力が低下すると、圧力変化に伴い本体も縮んでいく。圧縮水素はマイナス40℃という低温下でも、本体には圧力変化に耐えるだけの弾性(伸縮性)が必要となる。

高分子系材料に関する社内の豊富な情報と、担当者の知見に基づいて試行錯誤を重ね、EVOH(エチレンビニールアルコール共重合体)に着目した。EVOHはマヨネーズ容器などにも使われる樹脂。これに海綿状の別材料などを加えることで、低温時にも弾性があり、肉厚2〜3mmでもバリア性に優れた物性を確保することに成功した。

03 CAEを駆使して、最適な巻き方を模索する。

天然ガス(CNG)用タンク(耐圧20Mpa)と比べ、水素用タンクには3.5倍の耐圧70Mpaの負荷がかかり、耐圧強度に関する技術革新が求められた。

耐圧強度は、射出成型で作り上げた円筒カプセル型タンクの本体に、炭素繊維(1cm幅の帯状)を巻くことで向上させ、同時にバリア性を高めた。巻き方もタンクの曲面に応じて、円筒巻き・ら旋巻き・平面巻きの3種類を効果的に使い分ける必要があった。だが、巻きの種類・回数・方向などパターンは無限にあり、手作業で最適値を求めることは不可能に近い。そこで開発チームは、CAEによる評価・解析法を確立させ、強度を高める巻き方を模索していった。

それと同時に生産技術面にも着手。巻き加工を効率的に行えるフィラメントワインディング(FW)工法技術を採用し、生産性を向上させた。開発当初、耐圧テスト用の試作品の巻き作業には2日を要していた。それが同工法の導入によって、作業時間を約30分に短縮した。

タンクからの燃料吹出し部となる口金周辺では、燃料漏れをなくすためセルフシール機構を採り入れた。弾性を持つEVOH樹脂は、高圧時には口金に密着して自ずとシール機能を果たす。逆に低圧時の対策として、開発チームは、圧力差が生じても水素が漏れ出ない構造に口金の形状を改良した。その設計でもCAEが活用された。

今回の高圧水素タンク開発は、世界的にも前例のない開発テーマだった。未知の技術分野であるだけに、課題も多発。例えば、高圧環境によって耐疲労性の問題が生じた際には、分子構造から原因を究明して対策を練り、解決を図った。

開発にあたっては、高分子系材料、CFRP設計、CAEによる解析など、高度な専門技術が駆使された。各分野のスペシャリストが力を発揮し、2014年秋には試作段階での技術を確立。当時の技術レベルは、小容量の超高圧タンクであれば実用化できる水準にまで達していた。

04 失敗を恐れない企業風土が社内に息づく。

「豊田合成には、失敗を恐れない企業風土があります。“開発も事業も、挑戦を続ける限り、それは失敗ではない。あきらめたら、そこで終わりだ”、と経営トップが日頃から話すほどです。」

社内の開発風土について、内田はそう話す。さらに、若手エンジニアについては…。

「技術者に必要なのは、新分野に挑戦する強い熱意を持ち続けること。知らないことは恥ずかしいことではありません。わからないことは、わからないと言える“勇気”が大切だと思いますね。特に新分野での開発は未知な部分が多いですから。昨日より今日、今日より明日と、常に物事に好奇心を持って取り組み、一歩でも前進しようと、自らが成長していく姿勢が求められます。」

FCV分野は今後、車両や構成部品の改良に加え、水素ステーションの建設などインフラ整備によって市場の急成長が見込まれている。現在、高圧水素タンクの開発に成功した豊田合成の技術力は、自動車メーカー各社からも高く評価されている。そして事業は次のステップへと向かっている。