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困難とされてきたゴムのリサイクル技術を確立し、量産車に搭載 30年以上にわたりつないできた、技術開発と素材メーカーとしての責任
トヨタ自動車の人気車種「RAV4」の部品に、豊田合成が技術開発したリサイクルゴム素材が使用されている。ドアに装着するオープニングトリムウェザストリップにおいて、新品のゴム材料にリサイクルしたゴムを20%配合した。

ゴム製品は弾性を持たせるために、ゴム分子が硫黄で結合されている。熱を加えれば溶けて再利用できるプラスチックや金属とは異なり、ゴムは熱を加えても溶けず、リサイクルが難しいとされてきた。そのため、廃ゴムの多くは燃料として使われてきた。しかし、時代の変化ととともに燃焼時のCO2発生が問題視され、削減が求められるようになってきた。ゴムをリサイクルすることで廃棄量が低減し、燃焼時に発生する硫化水素などの化学物質の排出も防ぐことが可能になる。

リサイクルが難しいとされてきたゴムを再生し、自動車部品として使える高品質素材に生まれ変わらせる——。その難題に豊田合成は30年以上かけて挑戦してきた。その長い道のりを、材料開発担当の小林憲治、企画担当の山田宜伸・栗山直人、製品設計担当の安達健太郎に聞いた。
1.
1990年代後半の挑戦と、限界
環境問題への意識が高まり、京都議定書が採択された1990年代。豊田合成・トヨタ自動車・豊田中央研究所の3社によるゴムリサイクルの共同開発がスタートした。当時唯一のゴムのリサイクル技術とされていたのが、廃ゴムを薬品で5時間以上加圧・加熱する「パン法」。しかしこの方法ではゴムへのダメージが大きく、品質が劣化し、臭いも強く残る。そのため、限られた用途にしか使えなかった。
ゴムのリサイクル工程がある、静岡県の森町工場
ゴムのリサイクル工程がある、静岡県の森町工場
そこで豊田合成が着手したのは、2軸スクリューを使った全く新しい工法での「脱硫技術」だった。ゴム製品をリサイクルするには、ゴムを伸び縮みさせている「硫黄のつなぎ目」を切る(脱硫する)必要がある。しかし、ゴムを構成する高分子の結合まで壊してしまうと、品質が落ちてしまう。このアプローチでは、高分子の結合は保護しながら、「硫黄のつなぎ目」だけを選択的に切断。スクリューを構成する、数十種類のピースの最適な形状と組み合わせを追求し、数多くの設定を試した。トライアルだけで半年以上を費やし、ついに量産ラインが稼働を開始した。

しかし、当時その技術を適用できたのは1種類のゴムでできた製品のみ。2種類以上のゴムでできた製品や金属を含む製品には使えなかった。技術改良を重ねる一方で、設備の維持管理に費用がかさみ、ライン停止が検討されたこともあった。

企画担当の栗山は、当時の担当者から聞いた話を伝える。
プロジェクトの凍結が社内で持ち上がったときに、一人の技術者が言い続けたそうです。『ゴムのリーディングカンパニーとして、リサイクル技術を開発していくのは豊田合成だ。将来、絶対にリサイクル技術が求められる時代が来る』と。プロジェクト規模の縮小はあったものの、技術は途絶えることなく継承されたのです。(栗山)
その思いが報われる転機は、2020年に訪れた。気候変動や海洋汚染が深刻化する中で、豊田合成はリサイクル推進を決定。そこで新たに挑んだのが「リサイクルしたゴムの高品質化」だった。
2.
前例も研究もなく、手探りの技術開発
技術を社会実装し、車の内部部品に使用するための最大の壁は「臭い」だった。特に、車内で使用する内装部品は、わずかな臭いでも乗員の快適性を損なう。そのため車内部品として使うには、高い品質要求水準をクリアしなければならない。

リサイクルしたゴム特有の強烈な臭いをとるにはどうすればいいのか。材料開発者は、臭気成分は水と結合しやすいことに着目。高温のゴムが流れるスクリュー内部に、精密に制御された量の水を注入して成分を溶解させ、水が気化する際に臭気成分を巻き込んで除去するという技術を確立した。
しかし、この技術の確立までには数えきれないほどのトライ&エラーが続いた。高温のゴムが流れるスクリュー内に水を入れれば、温度が急降下し、内圧が跳ね上がる。水注入のタイミング、量、温度——すべてが最適でなければ、設備は正常に動かない。

シミュレーションソフトを活用し、予測を絞り込んで機械で検証する。しかし、ゴムは粘弾性体のためスクリュー内で複雑な挙動変化を示し、理論通りにはいかない。研究機関の専門家に相談しても、「ゴムは予測が困難」と言われるだけだった。
回収されたウェザストリップの廃ゴムは、断裁され、リサイクルゴムへ。そして新材に配合されてまた新たなウェザストリップへと生まれ変わる。
回収されたウェザストリップの廃ゴムは、断裁され、リサイクルゴムへ。
そして新材に配合されてまた新たなウェザストリップへと生まれ変わる。
前例も参考資料もなかったんです。わたしたちが試行錯誤しながら、シミュレーションと実際の挙動の差を感覚で掴み、知見を積み上げていくしか術がありませんでした。(小林)
材料開発担当の小林憲治
材料開発担当の小林憲治
スクリューの構成を変えるたびに、重い部品を分解し、組み換え、掃除をする。化学の知識を持つ技術者が、油まみれになりながら設備をいじり、材料を作る。理論と現場の両方を行き来する、体力勝負の日々が続いた。

こうした地道な努力と試行錯誤のもとに、脱臭技術を確立し、高品質化を成功させた。これまで5%以下だったリサイクルしたゴムの配合率を20%まで引き上げることに成功した。
日々、リサイクルゴムと向き合うメンバー
日々、リサイクルゴムと向き合うメンバー
3.
導入に至るための「仲間づくり」と「品質証明」
技術が完成しても、製品として採用されなければ意味がない。製品設計担当の安達は、RAV4への導入における自身の業務を大半は「仲間づくりだった」と振り返る。

カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車業界でもリサイクル材料の使用傾向は強くなってきている。しかし、車体に占める割合の多い樹脂、金属の優先度が高く、ゴムはマイナーな存在だった。
ゴムに限らず、『次世代に必須の素晴らしい技術』と意義は理解されても採用に至らない事例を数多く目の当たりにしてきました。部品素材メーカーが提案するだけでなく、カーメーカーの内部から『次世代のためにやらなければ』と言ってもらう必要があると感じたのです。(安達)
安達が採った戦略は、カーメーカーと合同で「リサイクルゴム採用に向けたプロジェクト」を立ち上げることだった。通常、カーメーカーは車種ごとに調達や設計といった部門を設けているが、今回はどの車種にも属さない「部品軸」と呼ばれる部署の人が参加。安達はここに大きな手応えを感じたと話す。

同時に、「リサイクル品」のネガティブイメージとも戦った。部品単品評価、車両評価のデータを徹底的に収集し、カーメーカーの組立現場で官能検査を行って「組みやすさ」まで証明した。
製品設計担当の安達健太郎
製品設計担当の安達健太郎
新材と遜色ないという時点で技術的にはすごいことなのですが、逆にいうと性能自体は上がっているわけではないです。業界的にリサイクル材はまだ付加価値として見てもらいにくいなかで、今回はカーメーカーが『ここまでの技術を確立したことに意義がある』と理解し、導入してくれました。そのこと自体が大きなインパクトになると期待しています。(安達)
RAV4という車種への採用も実は戦略の結果だと山田は語る。
生産台数が多く人気な車種に採用されたという実績がほしいと思っていました。生産台数が多い車種=量産化可能という証左になります。加えて中日産業技術賞で経済産業大臣賞をいただき、時代の要請に応えた技術である点が認められたと感じています。これが他の車種、他のメーカーへの横展開のきっかけになると期待しています。
※ 中日産業技術賞は優れた産業技術や製品の開発を顕彰するもので、経済産業大臣はその最高位にあたる
https://www.toyoda-gosei.co.jp/news/details.php?id=1475
今回RAV4に採用されたのはEPDMという合成ゴムをリサイクルしたもの。しかし豊田合成の挑戦は次の段階へ進んでいる。例えば、ゴムの中でも使用量が特に多い天然ゴムのリサイクル技術の確立。化学構造が異なる天然ゴムには「合成ゴムとの耐熱性の違い」という新たな壁が立ちはだかる。脱硫技術のさらなる進化が必要だが、小林らはすでに検討を始めているという。
4.
責任と技術をつないだ30年
1990年代後半〜2000年初頭のリサイクルブーム後、プロジェクトは凍結されそうになった。それでも、細々と開発を続け、現在に至るまで技術をつないできた。そのモチベーションとなったのが、豊田合成としてのアイデンティティだ。社の源流は豊田自動織機製作所のゴム研究部門。現在はトヨタグループで唯一、素材開発を行う企業としてのプライドと責任がある。
今は廃ゴムが燃料として活用されていますが、この時代がずっと続くとは限りません。グリーンエネルギーへの転換で燃料需要は減少するという未来も予測されています。我々は先取りして技術開発をしているんです。(栗山)
企画担当の栗山直人
企画担当の栗山直人
社会の需要が約束されたものではないため、技術確立までは開発費などを得るためにも社内から理解、支えてもらう必要がある。そのために山田は、技術の価値を社内外に「見える化」する仕掛けに力を入れた。

補助金を申請し、プロジェクトに対する公的な評価を得た。次に国際認証「ISCC PLUS認証」(※)を取得し、再生材の環境価値を示せるように。認証取得後、社外からの問い合わせが目に見えて増加。そこで生まれたつながりから意見交換の場を設けて、異業種からも新しい視点やアイデアを得た。それにより、プロジェクトを支える動きが広がっていった。

※ ISCC(International Sustainability & Carbon Certification)による国際的な認証で、バイオマスやリサイクル原材料の持続可能性認証プログラム。

その動きは、技術確立だけでなく社員のモチベーション向上にもつながっていく。
20代といった若い社員は社会課題解決や環境への意識が強く、業務を通じて貢献したいという気持ちが強い。ゴムのリサイクル技術とその社会実装として、環境や社会貢献にダイレクトにつながるアウトプットが出せました。社としても個人としてもリサイクルゴム技術に確かな手応えを感じています。(山田)
企画担当の山田宜伸
企画担当の山田宜伸
他部品、他車種、他メーカーへ。今回のリサイクルゴムの採用は循環型社会の実現への第一歩だ。

ゴムのリサイクル——それは素材のライフサイクルをつなぎ、技術をつなぎ、世代をつなぎ、そして持続可能な未来をつなぐ挑戦だった。「前例のない技術」を作り上げた技術者たちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
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