プラスチックは私たちの暮らしを支えていますが、製品の製造や使用後の処理など、環境への影響を考えると、さまざまな課題も抱えています。自動車業界においては、製品の製造や焼却によるCO2排出などが挙げられます。この課題の解決に向けて、豊田合成は2030年までの中長期経営計画の柱のひとつに「脱炭素」を掲げています。豊田合成は、高分子材料の知見を活かした高機能材料の開発やリサイクルの推進を行うことで、CO2排出量の削減に貢献しています。今回は、豊田合成が新たに開発したプラスチックリサイクル技術を紹介します。
01自動車部品に求められるリサイクル対応
プラスチックは軽くて、複雑な形状にも加工しやすいため、自動車にも多く使われています。近年、自動車業界でも、環境負荷低減の観点から、リサイクルをはじめとする資源循環に関わる法規制が強化される動きが加速しています。特に欧州では、2031年を目途に、車のプラスチック部品に一定割合のリサイクル材(PCR:Post-Consumer Recycled)の使用が義務化される予定です。さらに、廃車から新車へのプラスチックの循環を促すために、PCRのうち一定量を、廃車(ELV:End of Life Vehicle)由来のリサイクル材を活用することが、義務化される可能性があります。
■車に使われているプラスチック部品


※自動車工業会「再生材プラスチックの活用促進に向けた 自工会の取組みについて」を参考に作成
02プラスチックのリサイクル方法
プラスチックのリサイクルには、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクル、ケミカルリサイクル、といった3つの方法があります。
この中でも、「マテリアルリサイクル」は、使用済み製品を原材料として再利用することです。新たな原材料から製品を製造する場合に比べ、リサイクル原料を活用した場合は製造の際に排出するCO2量が少ないため、新たな資源の採掘や加工に伴うCO2排出量の点においてメリットがあります。脱炭素社会の実現に向けて重要性が高まっています。一方、デメリットとしては、リサイクルしても物性が低下してしまう場合が多く、特に使用済み製品を同じ製品にリサイクルする水平リサイクルが難しいことが課題となっています。

サーマルリサイクル
- 使用済みの製品の廃プラスチックを燃焼させ、その際に発生する熱エネルギーを回収・利用する方法で、現在最も主流なリサイクル方法。
- ごみ焼却施設での発電や、セメント焼成の燃料としても利用される。
- デメリットは焼却処理をされる際に排出するCO2量が多い。
ケミカルリサイクル
- 使用済みの製品を化学的に分解し、化学原料(モノマー・ガス等)として再利用する方法。
- 化学的に処理する過程で微小な不純物まで取り除くことができるため、新材と同等の品質の原料に戻すことが可能。
- デメリットはリサイクルの過程で排出するCO2量が多い。
このように、マテリアルリサイクルを推進することは、持続可能な資源循環型社会の実現に向けた大きな一歩となります。そのため、豊田合成では、マテリアルリサイクルを推進しています。
▶ TOPICS
マテリアルリサイクルの種類
マテリアルリサイクルには大きく分けて3つの種類があります。
表は左右にスクロールできます
水平リサイクル | ダウンサイクル | アップサイクル |
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使用済み製品を同じ製品の原料に用いるリサイクル方法。使用前後で用途が変わらない状態で循環します。 |
元の製品より必要な性能が低い製品へとリサイクルする方法。リサイクルしやすいので多くのものがダウンサイクルされています。しかし、リサイクルするたびに品質の劣化が進むため、リサイクル回数には限りがあることがデメリットです。 |
本来廃棄されるものに手を加えることで新しい製品に生まれ変わらせる方法。そのものの特徴を活かしながらより価値の高いものを作ります。 豊田合成では、エアバッグなどの端材をエシカルブランド「Re-S(リーズ)」としてアップサイクルしています。 |
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03豊田合成の挑戦 ~廃車由来のプラスチックの「水平リサイクル」を実現~
廃車由来のプラスチックのリサイクルは、様々な種類のプラスチックが使用されており選別が難しいことや、長期間使用するため、劣化状態の違いや塗料などの不純物の混入によるリサイクル原料の品質のばらつきが大きいこと、使用過程におけるタバコや芳香剤の臭いが残るといった課題があるため、リサイクルの難易度が高くなります。
豊田合成は、廃車由来のプラスチックを新車の同等部品へとリサイクルする「水平リサイクル」に取り組み、これらの課題を解決する新技術を開発し、いその株式会社と協業して実現しました。この新技術を活用した再生プラスチックは、廃車由来プラスチック(ポリプロピレン)を新材に50%混ぜても、新材と同等の性能を持つ製品を生産することが可能になりました。この再生プラスチックは、品質基準の高い自動車の内装部品の耐衝撃性が必要な部位(グラブボックス等)において、世界で初めて実用化※1しました。また、新たなプラスチック部品の生産に伴うCO2排出量を最大で4割削減※2できます。
この再生プラスチックを使用した部品は、欧州などで販売されている車種を皮切りに搭載が広がっています。
※1 2025年4月末、当社調べ
※2 IDEAに基づいて算出
■採用された製品


04リサイクル材料開発の動静脈連携
リサイクルの推進のためには「動脈産業」と「静脈産業」の連携が求められています。今回の水平リサイクルは、新しい製品を生産・供給する「動脈産業」と廃車由来の製品の回収・再加工を担う「静脈産業」の連携により実現しました。

05豊田合成の技術
豊田合成は、塗膜剥離技術や材料配合技術により、新材と同じレベルの耐衝撃性と強度を持つ再生プラスチックを実現しています。さらに、臭いの課題にも対応し、より高品質な部品づくりを実現しています。
次にリサイクル原料から再生プラスチックになる過程(上図のStep1・2)を紹介します。

【Step1】塗膜剥離技術回収したバンパーには赤や青、シルバーなど様々な色の塗装が施されています。これらの塗料が付着しているバンパーを細かく砕き、精米機と同じ原理で専用の設備を使って、塗膜を剥がし除去します。独自の条件設定により塗膜剥離の効率を上げることで実用化することができました。
■プラスチックペレット表面処理

【Step2】材料配合技術豊田合成は、リサイクル原料にポリプロピレンや特殊配合剤を適切な割合で加える配合設計技術と、設備を最適に加工する混練技術を組み合わせることで、新材と同等の性能を実現しました。

06適用製品の拡大に向けて
自動車に使用されるリサイクルプラスチックの比率を増やすため、他の車種や自動車部品への適用を進めています。これまで非意匠部品に限定されていたリサイクル材の活用を、今後は意匠部品にまで広げ、部品の多様性の拡大と質の向上を図っていきます。
さらに、リサイクル原料の確保のため、自動車以外のプラスチック製品から自動車部品へのリサイクルの実現も目指しています。
そのために、豊田合成は国のプロジェクトにも積極的に参画し、技術革新の加速と他社や他団体との連携体制の強化に努めています。限りある資源を有効活用し、サーキュラーエコノミーを通じたCO2低減を推進することで、持続可能な社会の実現に貢献をしていきます。
■今回の採用品黄色と今後採用が拡大する製品緑色


開発者の声
Car to Carの内装の水平リサイクルを推進
カーボンニュートラルや、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換が持続的な社会の実現に向けて求められています。そのためには、廃車から回収されるプラスチック素材への対応が重要です。自動車部品は高機能を実現するために様々な素材で構成されており、水平リサイクルをするためには、原材料の純度が鍵となります。そのため異材への対策がポイントとなります。
今後も迅速な開発でリサイクル技術の拡大を推進していきます。
第2材料技術部 主担当員 内田 均